本書はゲーム理論、行動経済学や神経経済学の観点から経済学の現在地を提示し、その未来と果たすべき役割を明らかにしています。
複雑化する現代経済を紐解いて将来を見通したい人は読むべき経済学入門書です。

著者紹介
瀧澤弘和
中央大学経済学部教授。1960年、東京生まれ。1997年東京大学大学院経済学研究科単位取得修了。東洋大学助教授、経済産業研究所フェロー、多摩大学准教授、中央大学准教授を経て、2010年4月より現職。専門は実験ゲーム理論、経済政策論、社会科学の哲学、比較制度分析、ヘーゲル経済学
その他『教養としての世界史の学び方』、またForbes JAPAN 2019年4月号(No.57)の短期集中連載などのお仕事もされています。
目次
序章 経済学の展開
第1章 市場メカニズムの理論
第2章 ゲーム理論のインパクト
第3章 マクロ経済学の展開
第4章 行動経済学のアプローチ
第5章 実験アプローチが教えてくれること
第6章 制度の経済学
第7章 経済史と経済理論との対話から
終章 経済学の現在とこれから
超要約
経済学を学ぶ際はミクロ・マクロの経済学から始まり、それを難しく感じて脱落していく人が多く、経済学が何をしている学問なのか分かりにくくなっていると思います。本書では、現代の経済学と心理学など色々な分野ともつながり、また経済学の広がりや全体像、多様な進化の様相を一般の人にもわかるように解説されています。
第1章〜3章は現代経済学の多様性、ゲーム理論の概要、マクロ経済学の「期待」と一般的な経済学の解説を説明されています。
第4章から本題の行動経済学の解説がはじまります。
行動経済学は必ずしも意識的・意図的に選択したのではない人間活動までの感心の領域を広げた経済学であり、伝統的な経済学と人間に対する見方が異なるのである。
第4章 行動経済学とは何かより
行動経済学とは人間の心理的要素を含んだ経済学で
・ヒューリスティクスとバイアスの理論
・プロスペクト理論
・異時点間の選択と双曲割引の理論
・心の二重過程理論
・社会的選好の理論
などが学部の授業で教えられています。
一例を紹介すると、ヒューリスティクスとバイアスの理論の中で引用される”アンカリング”があります。
例えば、車のカタログを見ていて、3500万円〜1億円の高額商品を見たあとで、100〜300万円の値段を見るとと安いと感じてしまう現象です。これは値段の判断基準が高い基準に一時的に置き換わってしまい、通常時の判断が出来なくなっている状態です。
第4章に続けて、第5章では経済学の実験を行い理論の検証をしていると紹介されています。しかし、著者によるとそれは「物理学を範例とした科学のあり方を大前提としていて、経済学などの複雑な状況において純粋な保定的発見とならないのではないか?」とも述べられていて、経済学での法則の再現性の難しさ、経済学の奥深さが伝わってきます。
第6〜7章では経済史と近年の経済学の発展、終章では総括が述べられています。

おすすめポイント
初めて行動経済学の本を読んだのですが、行動経済学の全容をざっと把握するにはとても面白く、また終章での経済学の問題提起や未解決課題への探究心、そして行動経済学の人間科学への関わりなど著者の研究者としての姿勢を感じられる部分もとても興味深い内容となっています。(終章については是非ご自身でご一読ください。)
入門書ではあるものの、読むには経済学の基礎知識がある程度必要と感じました。
著者関連のその他書籍
この本に紹介された参考文献