住宅ローンて何?

書評

2020年のゴールデンウィークの7日間は本や論文などを読んで過ごしました。発端は一冊の行動経済学の本をでした。
『いつも「時間がない」あなたに』
センディル・ムライナタン&エルダー・シャフィール 著
大田直子訳

この本は「ハーバード流 時間活用術時」や「シカゴ大学教授が教える時間活妖術」や「伊賀流 時間忍術」などの時間管理のビジネス書ではなく、「時間の欠乏」や「貧困の生活改善」など行動経済学の課題と経済学的な解釈が書かれています。

行動経済学というのは簡単に説明すると経済学や心理学、脳科学などを混ぜ合わせた学問で、かの有名なアルフレッド・ノーベルスウェーデン国立銀行賞の受賞者も輩出しています。アルフレッド・ノーベル スウェーデン国立銀行賞は通称:ノーベル経済学賞と呼ばれていますが、ノーベル財団からではなくスウェーデン国立銀行から賞金が支払われておりノーベルの遺言により設立された賞ではありません。噂によるとノーベル一族から不満が出ているとかなんとか。

そんな本を読んでいたら、なぜ忙しく働いているのか?なぜ貧富の差があるのか?なぜ住宅ローンを組む人がいるのか?そんなことに思いを巡らせはじめてしまったのです。

住宅ローン…住宅ローンって一体何なんだ!なぜ月収数十万円のサラリーマンなる集団がウン千万円もする『家』というものを買うのか。そんなに欲しいモノなのか?私は地方都市の賃貸に住むサラリーマンです。そんな私にとって家をローンを組んでまで買う心理は理解しがたい。そこで住宅ローンについて調べてみました。

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夢のマイホームは国の景気対策

住宅ローンは1897年(明治30年)に安田善次郎氏(現在のみずほ銀行を創設者)が「東京建物」という不動産会社を創設し、一般庶民が住宅を購入できるように割賦販売の商品を作ったのがはじまりと言われています。当時は住宅の需要が高く、地租改正により一般市民の土地の売買が可能になるとともに、日清戦争の勝利後で日本は好景気でした。つまり、家を購入することは高いステータスであると同時に投資対象でした。

時は流れて、第二次世界大戦後の1950年、住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)が創設されて公的な貸付制度が開始されます。高度経済成長により鉄道網が発展し都市部だけでなく首都圏一帯に宅地開発が行われました。そのままバブル崩壊前まで人口増加と地価上昇が続き「夢のマイホーム」ブームは止まりませんでした。

つまり、不動産業界の思惑と国の景気対策にまんまと乗せられて家をサラリーマンが買いまくったわけです。

人口と地価について

住宅ローンが国策ということがわかりましたが、一方でマイホームは資産として扱われることがあります。それではマイホームはどのくらいの価値があるのか考えてみましょう。人口と住宅地平均価格のグラフを総務省統計局のデータベースから作成しました。

グラフを見て分かる通り、地価は1990年のバブル崩壊直前をピークに下がり続けています。2008年のリーマンショックの後2020年まで回復しているように見えるのですが、2020年のコロナショックで不動産価格はまた下がると予想されます。さらに、人口は2014年をピークに減少すると予測されていますので、空室率が上がると予想されます。そのためバブル期に行われていた投資としてのマイホームの価値は下がっていく可能性が高いです。

もちろん、旅行者向けに家をリノベーションして貸し出したり、シェアオフィスなどに改装したりすることで事業化は可能かもしれませんが、ことマイホームを所有することに関してはリモートワークの普及により地理的な優位性の低下とともに利点が少なくなってきていると考えられます。

この背景があるので住宅ローン組むってどうかしてるぜ!と思ったわけです。しかし、この現状を理解していても、その他にローンを組む原因があるかもしれません。その一つの原因が金利です。

金利を %で表現されても…

最初に紹介した『いつも「時間がない」あなたに』に借金について借り手の能力ではなく、情報の表現によって借金を深く認識するかどうかの研究が紹介されていました。その研究では、研究者がサラ金からお金を借りるときにその封筒に3種類の表示を行ない。借り手の借金額がどの程度減るのかを調査しました。

1. 金利を%で表現する
2. 金利を金額で表現する(例えば 2週間の利子は$45、1ヶ月で$90と言った具合)
3. 返済状況を割合で表現する(例えば10人中2と1/2の人たちが完済している、4〜5人が再び借金している)

その結果、2.の利子を金額で書いた場合に借金額が減りました。ちなみに、調査対象のほとんどの方が大学出身なので、%の計算ができないという可能性は低いということです。
このように情報の表現を変えるだけで合理的な決定ができるようになります。

この研究から住宅ローンの金利が%で表現されていることによる影響が想像できます。住宅ローンの話をしているときに「金利が安くなるんです」なんて説明されて「やす〜い」と感じてしまうかもしれませんが、正しく認識していないかもしれません。

マイホーム売っちゃう?

これまでの話を見て「マイホーム売りたいな〜」とか考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、もしかしたら価値関数の状況により損切りができない可能性があります。
価値関数というのは行動経済学者のダニエル・カールマン氏が1979年に提唱した理論で、簡単に言うと、得した時の喜びより損した時の後悔の方に敏感に反応してしまいます。つまり、マイホームの売却で損が出る場合、心理的ショックを避けるために持ち続ける理由を探します。

マイホームを売却する際に心理的ショックがあるかもしれないので、それに備えて合理的な判断ができるようにしておくのが良いかもしれません。

まとめ

住宅ローンが気になって調べはじめましたが、結局は心理効果によって惑わされずに数字を理解しましょうという話になってしまいました。しかし、住宅ローンだけでなく、「当たり前」と考えられている概念、例えば「大学で学ぶメリットは何?」、「会社員はどの程度安泰なのか?」、「挨拶をする効果とは?」などを疑ってその裏に何があるのかをしっかり理解することが何よりも重要だと思います。

参考文献

(※1)『いつも「時間がない」あなたに』
センディル・ムライナタン&エルダー・シャフィール 著
大田直子訳

(※2)住宅ローンの歴史については以下の論文を参考にさせていただきました。
👉戦災復興期の住宅金融公庫設立と持ち家志向

(※3)プロスペクト理論のダニエル・カールマンの論文
Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk

(※4)プロスペクト理論は以下の行動経済学の本にも紹介されていますので、そちらもご参照ください。

(※5)またプロスペクト理論についてブログ記事も書いていますので、こちらもご参照ください👉部屋を快適に整える世界一簡単な方法

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