小学館のHugkumというサイトのパパママの子育ての悩み第1位は子どもの将来らしいです。
1位:子どもの将来(教育方針)
もっとも多かった悩みは「子どもの将来」についてでした。寄せられた悩みの具体的な内容を見ていくと、「子どもの将来」についての悩みは、学習や習い事についての教育系の悩みと、性格や周囲との人間関係の悩みのふたつに分けられるようです。寄せられた悩みの内容はこちらです。
Hagkum 子育ての悩みランキングTOP10!ママパパ調査でわかった悩みの本音、解決策はある?
本記事ではそんな方に、行動経済学の観点からこどもの「やる気スイッチ」の押し方をご紹介したいとおもいます。
行動経済学というのは、簡単に言うと経済学や心理学、脳科学などを混ぜ合わせた学問です。かの有名なアルフレッド・ノーベルスウェーデン国立銀行賞の受賞者も輩出しています。アルフレッド・ノーベルスウェーデン国立銀行賞は通称:ノーベル経済学賞と呼ばれていますが、ノーベルの遺言により設立された賞ではないのでノーベル財団からではなくスウェーデン国立銀行から賞金が支払われています。噂によるとノーベル一族から不満が出ているとかなんとか。
動機づけ
親「勉強しろ」
子「何で勉強しなきゃいけないの?」
親「それは…お前……アレだよ….」
人に勉強しろと言っておいて、答えが「アレ」では困ります。ここで自分の人生から「何で勉強するのか?」の理由を話した上で、「やる気スイッチがおでこについていればいいのに」などと考えていても仕方ありません。
そんな目に見えるところに「やる気スイッチ」はついていません。
やる気は脳の中の線条体という部位で出ています。

やる気とは?
やる気は2種類あります。
- 外発的動機づけ:渇水状態での水やジュース、空腹状態での食べ物、そして金銭などの外的報酬の獲得を目標としたもの。
- 内発的動機づけ:外的報酬を伴わない動機づけ。
簡単に言うと、
「誰かに言われた」や「ご褒美がもらえる」やる気を出した場合は外発的動機づけ。
「自分の中で意味ある」や「ボランティア」の場合は内的動機づけとなります。
どちらもやる気です。「外発的でも内発的でも子どものやる気が出るなら何でもいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、そこには大きな違いがあります。
アンダーマイニング効果
ある研究で、2つのグループにゲームをしてもらい脳内の活動をfMRIで計測しました。2つのグループは報酬ありとなしのチームです。ここで、報酬ありは外発的動機づけ、報酬なしは内発的動機づけに相当します。(※1 & 2)
【ゲーム内容】
・ストップウォッチを5秒±50ミリ秒で止められたら成功。
・報酬なしのチームは成功しても報酬なし。
・報酬ありのチームは一回の成功につき200円もらえる。
(ただし、実験の1回目だけ報酬あり。2回目は報酬なし。)
1回目の実験では両者ともに脳内で「やる気」が出ているのが観測されましたが、2回目には報酬ありのグループでは「やる気」の完全消失が観測されました。脳内のやる気の活動が完全に止まってしまいました。つまり、外発的動機づけの場合、報酬がなくなるとやる気もなくなります。
このように、報酬で「やる気」を高めた後に、報酬がなくなり急にやる気が消失してしまうことをアンダーマイニング効果といいます。
報酬は与えない
勉強して欲しいという思いから、褒めたり、お菓子で釣ったりしてしまいますが、その方法では、どこかの時点でやる気を消失させてしまいます。長期的に勉強する子を育てたいなら以下の行動は厳禁です。
- 宿題終わらせたらおやつあげるよ
- 次の試験で100点取れたらゲームを買ってあげる
- 偉いね。良くできたね。
小さいうちは騙せるかもしれませんが、子どもが成長したどこかの時点でアンダーマイニング効果が発生して、その時点からやる気がなくなります。小学校の頃に成績が良かった子が、高校くらいから成績が落ちたりするのは外発的動機づけで勉強していた事が原因かもしれません。
子どものやる気を上げたいなら、「勉強するとどうなるか?」、「しないとどうなるか?」の将来像を伝えて本人が勉強するまで待ちましょう。
(ちなみに、褒めるという行為は目上の人から目下の下の人に対するこういなので、子どもにしたら失礼と考えています。)
報酬あげまくればいいじゃん
報酬をあげ続ける自信がある方に補足として、報酬額とやる気の関係もお伝えしておきます。これもゲームと報酬の関係を調べた実験から得られた結果です。(※3)
【実験内容】
・6種類のゲームを用意する。
・報酬を低額、中程度の額、高額と3つのグループに分ける
・ゲームの勝ち点に応じて報酬を払う
高額グループの成績が最も低い結果となりました。この実験から報酬が高くなり過ぎると成績が低下します。つまり、報酬をあげ続けると、どこかの時点でやる気が報酬のプレッシャーに負けてしまい、成績が落ちてしまうわけです。
自主性を育てる
ここまでの話から「アンダーマイニング効果は分かったけど、どうすれば自主的に勉強してもらえるだろう?」と思われるかもしれません。そこで重要なのはコントロールしている感覚を子ども自身が持つことです。脳科学の実験から「選択の機会が与えられると人は喜びを感じ、選択それ自体を報酬と捉える」ということがわかっています。(※4)
あなたが子どもをコントロールしたいのと同様に、子どもも自分でコントロールしたいのです。子どもが勉強に関する事実を知ったら、勉強の選択肢を与えてあげましょう。そうすれば、自主的に勉強するでしょう。
ここで、子どもから助けて欲しいというサインを出してくるまで、親は口や手を決して出してはいけません。手を出すと自主性が失われ、勉強に対して無関心になってしまいます。
まとめ
いかがだったでしょうか?本記事の内容から子どもの「やる気スイッチ」を押すには以下の2つが必要なことが分かりました。
- やる気が消失する”アンダーマイニング効果”を避けるために報酬は与えない
- 自主性を育てるため、助けを求められるまで口や手を出さない
これだけ読むと、親にとって良いことづくめに見えますが、個人的な経験から親の自制心が問われます。早く行動して欲しくて何かしらのお菓子を約束してしまったり、勉強している途中で口出ししてしまったりします。しかし、そういった”感覚の子育て”をするより、科学的な子育てをする方が気持ちが楽になるかもしれません。
さらに、日頃から「なぜ勉強するのか?」を親がしっかり考えておく、また「勉強の楽しさ」を伝えられるように子どもと信頼関係を築いておくことも重要だと思います。
参考文献
(※1)『図解でわかる 14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来』
松元 健二 監修
インフォビジュアル研究所 著
自分が14歳だったら理解できないかもしれないくらい洗練された最新の脳科学の情報が、図で分かりやすく説明されています。テレビやネットで出回っている脳科学についてより深く理解したい方におすすめです。行動経済学を勉強している方で脳に詳しくなければ、この本から勉強をはじめることをオススメします。
(※2)やる気と脳ー価値と動機づけの脳機能イメージング
松元 健二 氏 (pdf)
(※1)の『図解でわかる 14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来』を監修された松元先生の特別講演の論文です。日本語なので、スッと理解できます。やる気と脳についてさらに詳しく知りたい方はご一読ください。
(※3)『不合理だからうまくいく』
ダン・アリエリー 著
櫻井 祐子 訳
ベストセラー『予想どおりに不合理』の著者の第2弾の本です。本記事では高過ぎる報酬とやる気の関係についての話を引用しています。文章は少し周りくどくて、450ページ程度ありますが、内容は興味深い話が多いので意外に読み切れると思います。
(※4)『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』
ターリ・シャーロット 著
上原 直子 訳
自主性について話はこの本から引用しています。2019年8月に発売された本なので、最新の認知神経科学の情報が物語として書かれています。数学や脳科学などの予備知識なしでも読むことができます。