社員が遊べば会社が儲かる

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大企業の給与制度やボーナスの仕組みは、「金銭的な報酬を与えれば社員がよく働く」や「KPI(Key Performance Indicator)によって会社を運営する」などの、100年以上前の産業革命時に作られたアイデアで経営されています。

今さからもしれませんが、もうその経営方法辞めませんか

本ブログは世の中の困りごとや悩み事にお役に立つかもしれない行動経済学の知識を発信しています。
行動経済学というのは、簡単に言うと経済学や心理学、脳科学などを混ぜ合わせた学問です。かの有名なアルフレッド・ノーベルスウェーデン国立銀行賞の受賞者も輩出しています。アルフレッド・ノーベルスウェーデン国立銀行賞は通称:ノーベル経済学賞と呼ばれていますが、ノーベルの遺言により設立された賞ではないのでノーベル財団からではなくスウェーデン国立銀行から賞金が支払われています。噂によるとノーベル一族から不満が出ているとかなんとか。

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時代遅れの給与システム

18世期中期から19世紀初頭にイギリスで起こった産業革命により、日本にも近代化の波が押し寄せてきました。農民がサラリーマンのような工場労働者となり始めた時代です。その頃の工場は一日12時間を超える長時間労働、不衛生な労働環境で、一方、工場労働者はフリーランスで出来高制で賃金をもらっていました。そのため、不良品が大量に生産される事態に陥っていました。
それに対処すべく、日光電気精銅所(現・古河機械金属)では働いた時間に応じて賃金を支払い、さらに賞与として作業奨励金を支払う仕組みを作りました。これにより、労働者のモチベーションが上がり、品質も改善されたそうです。(※1)

ん?この仕組みってサラリーマンじゃん。

当時は画期的だったかもしれませんが、もう100年以上前のシステムなんです。IT革命とか、人工知能とか言っている時代に、サラリーマンの報酬制度は何も変わっていないません。

にんじんぶら下げた馬じゃないんだから…

近年の心理学、行動経済学、脳科学などの研究により「報酬がモチベーションを下げる」という事がわかっています。

1970年代、スタンフォード大学のマーク・レパーは絵を描く幼稚園児たちに報酬を与えた場合のモチベーションについて研究を行いました。
1つ目が「賞状がもらえることがわかっているグループ」
2つ目が「知らされていないが、絵を書いたのち賞状をもらえるグループ」
3つ目が「何ももらえないグループ」
この結果、報酬なしの2と3のグループは2週間経っても熱心に絵を描いていましたが、1つ目のグループは絵に対する興味を大幅に失っていました。(※2)

また、2010年に玉川大学の村山 航氏、松元 健二氏らはストップウォッチを5秒±50ミリで止めるという簡単なゲームを大学生男女28名にしてもらい、fMRIで脳内の活動状況を観測しました。28名のうち半数の14名は成功すれば200円の報酬が与えられ、残りの半数は特に報酬はなくゲームだけをしてもらいます。報酬をもらえるチームは1回目実験では報酬をもらえますが、2回目は報酬をもらえません。
この実験の結果、報酬がもらえるチームは1回目は、報酬がもらえないチームに比べて、脳内のモチベーションに関わる部位(線条体前部)の活性化されていましたが、報酬がなくなる2回目には脳の活性化が消失してしまいました。つまり、報酬がもらえない事がわかると、物理的に脳内でモチベーションの消失が起こります。つまり、企業において報酬を多く与えて、休暇を十分に与えれば従業員が一生懸命働くという考えではモチベーションを維持できず、逆にモチベーションを下げかねないというわけです。(※3)

そしたら「モチベーションを上げるにはどうしたらいいのか?」の前にモチベーションについて理解を深めておきましょう。

そもそもモチベーションには『外発的動機づけ』と『内発的動機づけ』の2種類があります。『外発的動機づけ』は他人の評価(お金や承認)への欲求
『内発的動機づけ』は趣味やボランティアなどその活動自身への欲求
サラリーマンの報酬制度は明らかに外発的動機づけです。資本主義社会なので生活にお金は必要ですし、労働の対価として会社が社員に報酬を支払うことを約束しているのでタダで働いてもらうというのは難しいかもしれませんが、企業がこれらの動機づけを理解して、より良い労働環境を生み出す事で、社員と企業の間でwin-winの関係が気づけると思います。

自律性を育む

世界100カ国以上で販売されているポスト・イットは技術者の自由研究の時間により生まれました。開発元のスリーエムでは「自分が選んだプロジェクトに勤務時間の15%まで当てても良い」という方針があり、社員に自律性を与えています。

社員の「内発的動機づけ」を誘発するには、社員自身が好奇心を持って、自分の挑戦する課題を設けて、間違いを修正しながら、個人としてまた会社として成果物を世の中にもたらすというプロセスを踏んでもらえるように、社内環境を整える必要があります。一言で言うと自律性を持つような組織づくりが重要となるわけです。

こんな話をすると,、古いマネジメント方法を採用している会社は、自律性を社員に持たせるために様々なイベントでモチベーションを上げようとしますが、先ほどの幼稚園の実験にある通り、自律性をコントロールする仕組みを作ると自律性は失われます!なぜなら、自律性とは選択をして行動することであり、他者からの制約を受けずに、また相互依存もできる関係のことだからです。(※4)
では自律性を社員に持たせるにはどうしたら良いのか?

社員に自由に仕事をさせる

コミュニケーションはしても、会社から評価をしないという環境を作り出すことです。「管理をしないと仕事をサボってしまう」という性悪説に基づく考え方がありますが、正直、脳科学的には性善説に立って「自由に働きましょう」の方が圧倒的に効率がいいです。

(良い事づくしのように書きましたが、1点だけ補足説明をすると、自律性は創造性を必要としている職種では上手く機能しますが、働いている内容が固定されている様な、ルーチーンの職種ではあまりよく機能しません。その場合は報酬で釣った方が上手く機能します。)

まとめ

コロナ禍で世界的な不況に陥りつつありますが、そんな中でも創造的なビジネスアイデアを持っている企業は成長し続けている印象があります。それは働く人のモチベーションを向上させる様な企業文化によるところが強いと思います。

  • 報酬はモチベーションを下げる可能性がある
  • サラリーマンの報酬制度はもう古い
  • 社員を遊ばせると自律性を持って働きはじめる

参考文献

(※1)日本史で学ぶ経済学 横山 和輝 著
歴史と経済を紐付けて、現代の経済課題に焦点を当てています。新しい視点で経済を見る事ができます。

(※2)Lepper, M. P., & Greene, D., & Nisbett, R. E., Undermining children’s Intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the “overjustification” hypothesis. JPSP, 1973, 28, 129-137. 幼稚園児のモチベーションの実験の論文です。(英語)

(※3)松本健二:やる気と脳-価値と動機づけの脳機能イメージ ング.高次脳機能研究,2014,34(2):165‐174. fMRIを使って脳内のやる気の消失を観測について書かれた論文です。(日本語)

図解でわかる14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来
インフォビジュアル研究所 著、松元 健二 監修

こちらは研究内容が図解で説明してるので、より分かりやすいと思います。その他の脳科学について興味深い内容も書かれているので、ご興味があればこちらからご購入ください。

(※4)モチベーション3.0持続する「やる気!」をいかに引き出すか
ダニエル・ピンク 著、大前 研一 翻訳

内容はさることながら、文章も読みやすく、ページ数も適度で、正直かなりいい本です。人生の中で一度は読んでもらいたい本です。

本を読む時間がない場合はこちらの動画をオススメします。

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